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物欲と興味から生まれた究極のデイパック

<EUREKA FACTORY HEIGHTS>(以下、EFH)によるコラボレーションプロジェクトをご紹介するインタビューシリーズ。今回は現代の感性と伝統的な職人技の融合からオーセンティックなバッグや小物をつくり上げる<ARTS&CRAFTS>のデザイナー、藤本孝夫さんが登場します。

<ARTS&CRAFTS>もお店がオープンした2009年から取り扱っているブランドのひとつです。ティアドロップ型のデイパックはブランドを象徴するプロダクトであり、レザーボトムのデイパックは当店のショップスタッフも長く愛用していますが、現在は製造されていません。そこで今回特別に別注として復刻していただきました。しかも新たなディテールを盛り込んだ究極の定番として進化しました。その全貌について、藤本さんと<EFH>代表の小林が共通の価値観を踏まえて語ります。


Edit & Text: Shota Kato(OVER THE MOUNTAIN)
Photography: Masayuki Nakaya
*このインタビューは緊急事態宣言の発令前に行ったものです

車や時計はステイタスではなく物欲の象徴

ー<ARTS&CRAFTS>とのお付き合いは僕らがオープンした2009年からですが、当時はまだ<STANDARD SUPPLY *1 >は存在していませんでしたね。

藤本 そうですね。移転前の<EUREKA>さんには一度伺っているんですけど、移転後のお店にはまだ。小林さんとは展示会以外にパリでもお会いすることがあって、いろいろなモノをご覧になっている方だという印象がありますね。<EUREKA>さんは小林さんのセンスとトレンドと商売がうまく噛み合っている気がします。

*1:藤本氏が手がける、余白美を感じさせるクリーンなデザインで長く愛されるプロダクトを目指すバッグ・小物ブランド。

ー僕はモノに対しての執着心がすごくある方だと思うんです。買い物依存症とは言わないですけど、身の丈以上のモノを無理して買うようしていますね(苦笑)。でも、ある意味、自分がお客様のテンションでなければ、人の気持ちは動かせないんじゃないかと思う部分もあって。そこにはこだわっていきたいんです。

藤本 オンラインでは買わずに直接、という感じでしょう?

ーそうですね。そのお店、人から買いたいという気持ちが強いです。僕は幅広くいろいろな知識を持っているという訳ではなくて、本当に好きなものにしか興味が湧かないので知識は偏っているかもしれません。車であれば、クラシックレンジローバーが大好きで。ナイアガラグレーという色に5年くらい乗っていますね。

藤本 維持費が結構かかりますよね。

ーはい(苦笑)。でも、後期のモデルなので、キーレスエントリーもありますし、エアコンも効きますから。実は買ったのが、娘が生まれたばかりのときで、奥さんに「これからいろいろあるのに、どうしてこの車を買うの?」と聞かれて、「店舗什器だよ」と説得しました(苦笑)。車から始まる会話もあるじゃないですか。

藤本 たしかに絵面が良いですからね。僕も車好きで、これまでに20台以上は乗ってきました。それこそ最初は<ホンダ シビック>から始まっていて。<ランドローバー>は知り合いが乗っていたものを譲ってもらったことがあります。<ランドローバー ディスカバリー>は1,2,3と乗り継ぎましたね。試乗を含めたら、何台の車に乗ったのかわからないくらいです。<ランドローバー ディフェンダー>は今でも欲しいですし、<フィアット パンダ>や<BMWミニ>にも乗っていたので、僕は四角い車が好きなのかもしれません。ジョルジェット・ジウジアーロがデザインした<パンダ>が好きで、特に今欲しい車でもありますね。今乗っている車は大きいので、趣味の銭湯に行くための気軽なやつが欲しいんですよ。

ー車も時計もステイタスではなくて。要は物欲なんですよね。

藤本 物欲は大事だと思いますよ。前よりはモノを吟味して買うようになりましたけど、おそらく無くならないんじゃないかな。

物欲と興味はものづくりの原点

ー僕はミニマリストや断捨離の流れが好きではなくて、モノを所有することで得られる経験や魅力を大切にしたいと思っているんです。

藤本 僕は独立する前はサラリーマン生活だったので、物欲を抑えていたんですけど、フリーランスになった途端に買いまくりました(笑)。バッグに限らず洋服も道具も。釣りに興味あったので、特にアウトドアにまつわるモノや自転車にバイク、振り返ってみると、本当にいろいろなモノを買ってきたなと。

ー今まで買ってきたモノは藤本さんのものづくりに反映されていますか?

藤本 そう思います。何かを買うと、「この機能は何なんだろう?」と細かく見てしまうんです。一つひとつの機能とその理由を知りたくなるといろいろと知識が増えますし、「自分だったら、こうするのに」という気づきも得られます。僕、メモ魔なんですよ。いろいろなものに興味を持って、深く掘り下げたくなるので、その都度書き留めていて。物欲と興味はものづくりの原点ですね。

ーバッグはファッションアイテム以前に道具ですが、その用途の突き詰め具合はどうやって折り合いをつけているんですか?

藤本 用途という意味では、今後やってみたいことがあって。<ARTS&CRAFTS>も<STANDARD SUPPLY>もタウンユースやデイリーユース向けなので、機能を突き詰めるというところまでは行けていないと思うんですよ。ただ、僕はこれまでファッションバッグをやってきたわけですけど、今後はもう少し道具的視点でものづくりをやってみたいんですね。できれば、いろいろなプロフェッショナルと一緒に。例えば内装の方です。3月19日にお店(<STANDARD SUPPLY 二子玉川>)をオープンしたんですけど、内装をお願いした方が道具を入れるバッグを持っていて。「これがこうならば、もっと使いやすいのに」という話を聞いているうちに、改めてその道のプロの方々とものづくりしてみたいという気持ちが湧いてきました。

ー仕事のカバンを量産向けに?

藤本 そうです。それこそ銭湯好きなので、道具的視点で銭湯用のバッグでもつくりたいなと。カバン業界って浅草、足立、埼玉の草加とかに職人が多いので、車にタオルを入れて行くんです。その土地の銭湯にも立ち寄るために。そこから何十年と通っていると、銭湯用のバッグが欲しくなってくるんですよね。

<ARTS&CRAFTS>の中に<STANDARD SUPPLY>を混ぜる

ー以前、ウチの3周年に合わせて、イタリア軍の迷彩柄のダッフルバッグを解体した生地を使ったデイパックをつくっていただきました。リメイクの特徴を生かしたあのデイパックも素晴らしかったけど、今回の別注は会心の出来です。ラギッド過ぎず、ヘビーデューティー過ぎず、絶妙なデイパックに仕上がりました。

藤本 よかったです。ありがとうございます。

ー少し前から個人的にデイパックが欲しかったんです。それこそ自分にとって、ひとつの定番になるような。今は世の中的にデイパックよりもトートバッグやショルダーバッグが多いという体感があって、この別注を機に自分の中での究極のデイパックを形にしたかったんです。ウチのスタッフが<ARTS&CRAFTS>のレザーボトムのデイパック(上部写真のネイビーのモデル)をずっと使い続けていて、やっぱりいいなあと思ったんですね。

藤本 小林さんにとっての究極とは?

ーアウトドアブランドのようにポケットが豊富にあったりスペックが高いものではない、ミニマルなデイパックというんでしょうか。ポケットがほどよくあって、荷物をどこに収納するのか迷わない。デザインは<EASTPAK>や<OUTDOOR PRODUCTS>のように、大人も持ててホッとする。なので、<ARTS&CRAFTS>のルックスの中に<STANDARD SUPPLY>の要素を混ぜたいなと考えたんです。

藤本 なるほど。このデイパックの素材は表面がテフロン加工、裏面はウレタンコーティング加工が施された610デニールのポリエステルコーデュラです。ナイロンに比べて3割ほど軽くて、見えない機能ではありますが若干軽い素材を使っているんですね。ちょっと柔らかい印象なので、女性も使えるユニセックスなバックパックに仕上がったと思います。


ー僕も男女どちらにも提案したかったので、その意味でも会心なんです。

藤本 ボトムのレザーは素材によっては毛足が長いスエードを使ったりするんですけど、今回の別注では同じ毛足モノでもヌバックを使っているので、吟 *2の磨り方がすごく上品なんです。おとなし目の吟磨りなので、本体の素材にマッチしていると思いますね。

*2:革の表面のこと。吟磨りは革の表面にヤスリをかけて起毛させる技法。

ー個人的に<ARTS&CRAFTS>には、ブラック、ネイビーという印象があるので、こういったブラウンのような中間色は珍しいというか。素材と色を変えることでユニセックス感を出せたらと考えていたんです。ちなみに、レザーボトムのデイパックは、今の<ARTS&CRAFTS>のインラインからは外れていますよね。今は一般流通していないから復活させるというのは、セレクトショップとしての醍醐味ですね。

藤本 ブランドとしては一度やめてしまうと復活させにくいですけど、嬉しいですね。自分たちで下ろしたものを復活させるのは気が引ける部分もあるので、お声がけいただける分には喜んで、というスタンスなんです。

アメリカの洋服と道具に魅了され、ヨーロッパでモノの見方とセンスを学んだ

ー<ARTS&CRAFTS>に加えて、今は<STANDARD SUPPLY>も展開していますが、藤本さんはそれぞれをどのように位置付けていますか?

藤本 <ARTS&CRAFTS>はちょっと男らしくて無骨、<STANDARD SUPPLY>はクリーンでシンプル、といったところでしょうか。<STANDARD SUPPLY>はリュックのイメージが定着していたので、ブランドとしての差別化が必要になってきたんですね。今でも僕らの葛藤なんですよ、どうやって差別化していこうかというのは。

ー難しいですよね。洋服ブランドでもディフュージョンライン *3 をつくるじゃないですか。そうすると、ネームタグが違うだけで、どちらがどのブランドなのか分からないことがあります。それはモノとして問題だと思っていて。

藤本 <ARTS&CRAFTS>は僕がスタートさせたブランドなので、ディレクションからデザインまで自分が担当していますが、<STANDARD SUPPLY>は会社として人数が増えてきた中で生まれたブランドなので、一部はデザインしていますが僕以外にもデザイナーがいます。それに女性スタッフも何人か増えているので、彼女たちの意見も聞きながら、<STANDARD SUPPLY>をつくっていきたいなと。

*3:セカンドラインとも呼ばれる。ブランドのアイデンティティ、感性、特徴などをキープしつつ、低価格の商品をつくる場合が多い。

ー僕らも今は<EFH>と<EUREKA SATELLITE STORE>もあって、店とスタッフが増えました。それこそ<ARTS&CRAFTS>は<EFH>、<STANDARD SUPPLY>は<EUREKA SATELLITE STORE>という具合に分けて展開しています。

藤本 今日は小林さんと今まで以上にお話ができてよかったです。小林さんはもう少し男っぽいモノが好きなのかなと思っていたんですよ。

ーよく言われます(苦笑)。僕個人としてはニュートラルな感じが好きなんです。車に例えると、アメリカ車は好きではなくて。

藤本 それは僕も同じですね。僕はもともとアメリカの洋服や道具が好きだったけど、ヨーロッパに行くようになって、モノの見方とセンスが変わってきました。道具的視点だと、アメリカの無骨さは好きなんですけどね。クラシックレンジに例えるならば、アウトドアの車だけど品の良さを感じます。「英国王室御用達」という響きが好きなんでしょうね。

ー僕もまさにそうです。

藤本 また別注でご一緒できるときは、ナイアガラグレーのバッグをつくりましょう(笑)。

ARTS&CRAFTS / Leather Bottom Day Pack for EFH
Color : Mocha Brown
Price : 32,000yen (w/o tax)
Delivery : Middle of May

こちらの商品は現在ご予約受付中です。デリバリーは5月中旬を予定しています。
生産数量に達し次第、受け付けは終了いたします。尚、受注いただいたお客様の中から先着で同生地で作られたポーチをプレゼントいたします。